2005年09月05日

第1回 はじまりはロッド

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1979年2月地下鉄九段下駅。一人の少年が改札から出てくる。中背やせぎす顔は3人前、上から下まで近所のホテイヤで買った服装、靴は月星、ジャンバー、頭にはハンチング帽、唯一のお洒落らしい。CISCOと書いてある黄色のビニール製のレコード袋と大きなバッグを手に持っている。出たとたんきょろきょろ。どうやら初めてここに来たらしい。壁にある周辺地図を見つけるとなめ回すように注視。しばし考えた後右手の出口階段から外へ。長い坂道がある。凄い人ごみ。頭金髪パンタローンのお兄ちゃん、その彼女らしき派手なお姉ちゃんなんも混じった長い列、そして列。その中で一番目立たないその少年はこれに混じって行けば間違いなかろうとそろそろと後をついて行く。途中何回かビラ配りのお兄さんと遭遇、その全部を貰う。イーグルス来日、リンダ・ロンシタッド来日、ボブ・マーレー来日。2色刷りのそのチラシを大切そうにレコード袋に入れてお堀にかかっている橋を渡る。傍らにたこ焼きの屋台。お腹が空いていたが横目で見て名残惜しそうに通り過ぎる。昼間そのレコードを買うためにお金はもう帰りの電車賃しか残っていなかったのだ。あとあれに使う分と...。

門をくぐると建物が見えてきた。足は棒、かなり疲れていたけど元気一杯、わくわくして目がぎらぎらしてる。

 どこに並べばいいんだろう。きょろきょろして探す。席は2階席だけど...。うろうろして右手に駐車場がある道を進む。いつかあの駐車場を使ってここに来る日があるだろうかなどと考えながら。2階西。あったここだ。長い列の最後尾に並ぶ。周りはもうすっかり暗くなっている。まだかまだかと待っているとようやく開場のよう。凍り付いてた列がいきなりだーっと進み出す。どきどき心臓が。楽しみだってこともあったけど、バッグの中にでかいラジカセを念入りに隠してあるのだ。階段を上ってチケットを切ってもらい問題の手荷物チェックを。冷や汗かいたけど通り一遍中を覗かれただけで済んだ。えーとパンフレットはどこに売っているんだろう。あそこだ。わあわあ言っている。1500円。ひえー。半分泣きながら買う。人ごみでぐちゃぐちゃにされながらドアを開けて中に。ああ、これが武道館だ。

とりあえず席を見つけたかった。西の2階席一番前。えーと、どこだろう。うろうろしながらもやっと席に着く。タンタンタンとかチェックチェックとかサウンド・チェックの音だけでもうどきどきわくわく。足元のデカラジカセの準備を確かめてと。パンフとかゲットしたチラシを眺めてそわそわしてるうちに、場内暗転。いよいよだ。カセットのスイッチを入れてと。
暗闇の中でメンバーが出て来る。
大歓声の中でいきなりガンガンと強烈リフ。
右手からサッカーボールを蹴飛ばして登場は
ロッド・スチュワート。
曲はホット・レッグス。
彼にとって初めてのライブが始まった。


場内照明点灯。少年は凍り付いている。みんなやってくれた。あの曲もこの曲も。アンコールではセイリングも。あの曲あんまり好きでは無かったけど。それでも...。またアンコールしてくれないかなあとパラパラとした拍手が終わる頃名残惜しそうに尻を席から引っ剥がして会場ドアから出た。テープにしっかり録れてるだろうか。何か気になっちゃった。今度のライブでは録るのやめようかな。急に寒くなってきた。トイレに一直線。長蛇の列だ。駅からずっと行ってなかったから相当あせっております。ようやく順番が来てほっと一息。じょわーっと。ふと右を見ると。
「あ、ラーメン屋」
「お、毛糸屋じゃん。」
そこで連れションとなっていたのは近所のラーメン屋の息子だった。

九段下の下り坂。長い行列の中二人は歩く。ライブの興奮がまだ残ってるため口数は少ない。良かったよなあ。かっこ良かったよなあ。同じようなことを言っている。九段下の駅。どぶのような臭いがうっすらとする。東西線に乗って日本橋まで。そこで乗り換えて都営浅草線へ。京浜急行直通の特急で横浜まで行く。当然帰宅大ラッシュ。しかしともかくも落ち着いて来た二人。車内でようやく話始める。
「お前、ロック好きだったんだ。」
「へへへ。」
「ちっとも知らなかったな。中学の時は全然聴いてなかったんじゃないのか。」
「まあね。」
「何が好きなんだ。まあロッドは好きなんだろうけど。」
「まあ、いろいろ。で、お前そのレコード何?」
「あー、これー。へへ。ちょっとね。」
「何だよ、気になるな教えろよ。」
「うーん、これだよ。」
と言って袋から中身をちょっと出す。
「あ、何これ。ステータス・クオーじゃん。」
中身は英国のブギ・ロック・バンド、ステータス・クオーの77年のライブ盤2枚組。
「へへへ。」
「そんなの聴くのか?」
「いいじゃないかよ、聴いたって。」
「あ、怒った。怒るなよなあ。俺も好きなんだから。」
「えー、お前ブギ好きなの?そうなのか。」
「まあね。へへへ。よく買えたなあ。2枚組だろそれ。」
「いいだろ。実はカット盤。1480円。」
「いいなあ。貸してくれ。今。」
「何言ってんだ。駄目に決まってんだろ。」
「くそ。良いじゃんか。じゃあしょうがない。お前が聴いてからで良いよ。」
「なんか偉そうだなあ。しょうがない。数少ない同志だしあとで貸してやるか。じゃあお前も何か貸せ。」
「何だよ。」
「ブギが好きなら何かレコード持ってるだろ。とっておきのを貸せ。」
「なんかえらそうだなあ。しょうがないこの前買ったフォガットのライブを貸してやるか。」
「おお、フォガット!それ聴きたかったんだ。すぐ貸せ今貸せ早く貸せ。」
「なんだよ。交換だよ。」
などど馬鹿話してるうちに横浜に到着。普通電車に乗り換える。
「しかしお前ほんとにブギ好きなんだなあ。」
「へへ。まあな。」
日の出町に到着。橋を渡って二人でイセザキ町の方に向かって歩く。
「あー、バンドやりてぇなあ。」
「やりてえなあ。やりてえええなああ。」
オデオンビルの交差点を右に曲がりすぐのところで
「じゃあな。」
「あさって昼ごろ良かったら持って行くよ。レコード。暇だろお前。」
「忙しいよデートだよ。」
「ばーか。昼に行くぞ。」
「へーい。」
デートなどあろうはずの無いにきび面のラーメン屋、ここにあり。


陽は照っていても底冷えのする冬の日曜、毛糸屋の少年はラーメン屋を訪れた。横浜だとゆうのにここはイセザキ町の中心から外れているためまったく普通の中華料理店である。
「こんちわー。」
「お、ケンちゃん。ひさしぶり。」
「あら〜、ケンちゃんじゃな〜い。随分大きくなったのねぇ。」
「へへへ。オサム君いますか?」
「上で何やってんだかー」。
「おじゃましまーす。」
店内は広くは無い。カウンターと机2つ。椅子は緑色のビニール製パイプ椅子。調理場にはオサムの父親(花沢徳衛)と姉の(富士真奈美)がいてケンを迎えてくれた。

店の奥の階段を上がってすぐがオサムの部屋。寝転んでミュージックライフを読んでやがった。
「おいおい、せっかくレコード持って来たんだから出迎えろよなー。」
「お、来たか、出迎えられるような偉人さんかえ。まあそこらへんに座れよ。」
「おう。はいこれ。」
「おーサンキュさんきゅ。クオーね。くおー」
部屋の壁にはもう地の壁紙が見えないほどポスターが貼られている。ロッド・スチュワート、フェイセズ、ストーンズ、バッド・カンパニー、モット・ザ・フープル、襖にもZZトップ、ヤードバーズ、CCR、ジョン・フォガティ、ZZトップ。
「しっかしすげえなあ。貼りまくってるじゃん。お、モットだ。これよく手に入れたなあ。」
「へへ。T都無線に入り浸ってたもんで兄ちゃんと仲良くなっちゃって。貰っちゃった。」
「え、いいなあ。お前愛想良いもんな。得するよ。」

そこへ下から階段を上がってくる音が。
「おまちどうさまーー。」
ラーメンを持って姉が上がって来た。
「あー、お構いなしで。どうもすみません。」
「何言ってんのよう。うちに来たらこれ食べてってもらわなくっちゃ。嫌でも食べてねぇ。」
「はい。いただきます。」
「ところでお兄さん元気〜。最近見ないけど。彼女とか出来たんじゃな〜い。」
「いや、全然最近帰って来なくて。あの人、よっぽど大学が好きみたいで。泊り込んで研究ばかりしてます。俺と違って頭良いからねえ。」
「あらー。そうなのー。たまには食べに来てねえって言っといてねー。」
姉は独身らしくケンの兄のことをどうやら狙っているらしい。お約束の展開である。

「ラーメン置いたら早く下行ってくれよー。大切な話があるんだから。客が来るぞ。」
「なにが大切だか。そうやってすぐ姉ちゃんを邪魔にするんだから。」
プリプリしながら姉は降りていった。降りながらまだ何か言っている。

「ところでお前、どんなの持ってんだ。レコード。」
「おー、とりあえず食べてるあいだ、この前のロッド聴いてみるか。へへ、俺もテープに録っておいたんだ。」
ラーメンは昔と同じでかなりうまい。これは儲けた、これからも来ようとケンが心に決めてることに気付いてか気付かずか、オサムはラジカセのスイッチを入れた。

ざわざわとした中、ホットレッグスが流れてきた。


ライブの模様を想い出してボケーとしてるうちにテープが終わる。音質はうちのとあまり変わりないなとケンは思う。あれだ手拍子とか入っちゃってまともに聴けないのね。
「いやー思い出すなあ。」
「良かったよなあ。」
「ギター3人でガンガン来るのが良かった。」
「また見てえなあ。」
感慨にふける。
「バンドやりてえなあ。」
「俺も...。」
「お前、なんか楽器出来るか?」
とケン。
「うーん。生ギターなら少しは出来るけど。。。」
「俺もそんなとこだなあ。。。。」
「エレキ買おうかなあ。」
「お、お前がやるんなら俺も買うぞ。おい、バンドやろうぜ。」
「おーやろうやろう。」
「おい、生ギター出せよ。」
「ちょっと待って。」
ゴソゴソ。押入れからギター出すオサム。
「えーと、チューニングはと。」
びゅんびゅん。びゅんびゅん。びゅんびゅん。
「こんなものかな。」
「ホット・レッグス弾いてみろよ。」
「えー出来るかなあ。」
「だいたい3コードだろ。Eなら押さえられるだろ。」
「そりゃローコードなら知ってるけど。EとA押さえりゃいいかー。あ、明星の歌本があるぞ。」
「おへー。お前そんな本買ってるのかー。ははは」
「うるせー。だって洋楽の楽譜が載ってるじゃないか。」

ずんずんずんずん、ずんずんずんずん。

「へーいけるいける。その調子その調子。」
けっこうリズム感は良さそうなオサム。小さな音で遠慮がちに。それを続けてるうちに・・・。

フザノッキンオマドー、ガタビアカタトゥフォー

歌本のカタカナ見て小声で二人で歌い出してしまう。すべからく合っていない。

イズイットユーアゲン、カミランフォモア

だんだん大きく

ウェユキャラッミーツナイフユウォン
バットインザもーにんメイクシェユゴーン
アイトーキントゥユ

絶叫!!

ホットレーッグス!ウェリンミアウー!
ホットレーグス!ユキャンすクリーミンシャウ
ホットレーグス!アーユースティルインスクール。

「うるせーっ。おめえらいったい何騒いでんだ。コラーっ。」by花沢徳衛in階下ラーメン。

二人びっくりして急に小声で・・・

「アラブユほね。」


気まずさと恥ずかしさの中しばし沈黙の時。時々おさむがギターをびろーんとつまびき。
「なあ。....エレキ買わなきゃな。」
「うん。」
「お前、金有るか?。」
「なもんあるわけない。そうゆうお前は。」
「ははは。なもんあるわけない。」
「バイトだな。」
「バイトだ。」
「俺は店の出前手伝えばいくらかくれると思うけど...お前当てあるか?」
「うーん、考えたことなかったからなあ。」
「そうか。.........よしついて来い。」
「何だよ。」
と二人で慌てて階段を降りようとする。
「あ、レコード、レコード。フォガット、貸せよなあ。」
「ははは、やっぱり聴くのかあれ。」
「当たり前だろ。そのために来たんじゃないか。」
「わりいわりい。.......はいこれ。」
「おお。じゃ行こう。」
だんだんだん。
「騒いですみませんでした。」
「おう、もう帰るのかい?ゆっくりしてきな。」親父。
「そうよ。少しぐらい騒いだっていいじゃない。若いんだから。それをお父さんたら。」
「うるせー。客が一番だろが。」
「ははは。すみません。ラーメンご馳走様。ほんと美味しいす。ここのラーメン。」
「ラーメンならいつでも食いに来な。金出したらチャーシューメンにしてやっからよー。」
「ははは。おじゃましましたー。」

店を出る二人。
「俺の親父すぐカミナリ落とすっからなあ。」
「いいじゃんか。うちの婆ちゃんに比べりゃ優しいよ全然。」
「相変わらずこえええんだ。」
「うん。最近ますます迫力出てきてさ。だから頼むよ。(これからも)お前のとこ行くからさあ。」
「それはかまわんけど。」

「おおここここ。」
おさむの店のすぐ近く松竹の映画館の向かいのハンバーガー屋に二人で入る。当時出てきたマクドなんかと違って古くからやっている個人営業の店だ。
「こんちわー。    どーもマスター。」
「お、来来軒のオサム君じゃないか。ひさしぶりだなあ。   近くなんだからたまには食べに来なよ。」
「ははは。すんません。家にいるとラーメンばっか食わされちゃって。」
ハンバーガー店のマスター(大坂志郎)。顔は悪いが気は良さそうな人だ。二人は親しいようである。
「どうも。こんにちわ。」
「お、君は七丁目の毛糸屋の息子さんだね。えーと...」
「ケンです。」
「ああ、ケン君だったね。それで今日は何にする?」
「あ、おじさん、違うんです。今日はお願いが有って...」とおさむ。
「なんだい。やぶからぼうに。」
「えーと。こいつを使ってやってくれませんか?もちろんバイトですけど。」
「バイトかい? うーん、最近不景気だからなあ。.....。よし、いつから来れるかい?」
「えと、すぐ出来ます。平日の夕方からと、土日は全部出来ます。」
「よし、じゃあ頼むわ。さっそくだけどちょっと店番頼むよ。これ付けてさあ。」
とエプロンをケンに着せて行ってしまうマスター。
「あー、あのーおじさん。そうやったらいいんですかーーー!!」
「あー、ありゃパチンコだ。まいいか俺が教えてやる。  実は中学の頃手伝ってたんだ俺。」
てな訳でバイト決定。
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