
かくして1979年の5月、新芽吹き出し天気明朗至ってうららかな日にバーガー・シローは新装開店となりました。ついでにお店の名前も変わって「桃屋」に。昼は普通のバーガーショップ。一転夜はライブハウスに変身も可能とゆう2重人格であります。これもひとえにシローちゃんのロッキン心に火を付けた猪突猛進の若者どものなせる業かも。
その日は日曜でありました。朝10時の開店時点には店を手伝うケン、おさむはもちろんのことイットク、マコ、ショータとブギブラザースの面々は全員集合。さらに近所のよしみ来来軒のトクエ親父、マナミ姉ちゃん、ハマ楽器の岸田兄ちゃん、そして歳とってる割りに何かモダンで若作りなおじちゃん連中数人も混じってセレモニイ敢行です。
ぽーん。10時の時報と共に店の前でシローおじちゃんの挨拶開始。店の中からマイク持ち出し、そんな装備はおちゃのこさいさいになっている。
「えー。あ、声が高いな。えー、ごほんごほん。えーえーチェックチェック。入ってるな。えー。」
「おーい、はやくしろー。腹減ったぞう。」
その場の全員爆笑。
それで落ち着いたシローちゃん。
「みなさま。ご紹介にあづかりまして5月の天気明朗うららかな日和いかがおくらしですか。本日はバーガーシロー新装開店、生まれ変わって桃屋の新装開店にお付き合いくださりくだされくださろ」
「きゃあおじさんが壊れたー\(^o^)/」
「えーくださりありがとうございます。これもひとえにここにおります若者二人の甘言、いや熱心さにほだされたおかげさまでございまして、ええいめんどくせい。みんな開店だ。一杯食べていっておくれー!!」
わーわーぱちぱちぱちぱちぱち。大歓声と拍手。
「いらっしゃいませ。いらっしゃいませ。」
ぐっと明るく若返った店構えのおかげで盛況も盛況。店満杯でケンとおさむ、そしてアッコはてんてこ舞い。おじさんはのんびりと挨拶周りしております。残ったブギブロスの連中はと言えば奥のステージの隅に陣取りこそこそとアンプにつながない状態で音あわせをしております。
そんなこんなで夕方6時。シローの閉会宣言。
「えーみなさんありがとうございます。当店の昼の部はこれで終了。これから夜の部になりますがそれは様子を見て再開店とゆうことで今日はどうもありがとうございました。今後ともバーガーシロいや桃屋をどうかよろしくー。」
と一般客ピーポーを全員追い出しにかかる。
「さあ身内だけのパーテーだ。ほらほら君達何してる。演奏だ演奏だ。早く準備したまえ。」
ケン「えー、練習じゃないんすか。お客さんがまだいっぱいいるじゃないですかー。」
「いいんだいんだ身内なんだから。ほらほら。あーのこーの言ってると尻蹴飛ばすぞー。」
今日のシローちゃん。男らしくてす・て・き。
ショータ「わ、わ、わ、わ、どうすんですか。やるんすか。これライブ。ライブ。」
ぼかっ。
おさむ「しゃあないだろ。こうなったら肝据えてやんべえ。最初だから失敗してあたりまえだーのクラッカー。」
隅でそそくさと準備する面々。アンプにシールドぶっさし、シローの手伝いで何とかドラムセッティングし。アンプのヴォリュームもシローちゃんまかせ。
「えーみなさん。パーテーオーン。今日はありがとう。まず最初はこの連中。この若いやつらのおかげでこんなことになりました。横浜ブギー・ブラザース。気合入れて行ってみよー!!」
ケン「チェックちぇっく、おーうーあー。声こんなんでいいすか。うえー。えー、ご紹介にあずかりますたブギブラザースでででででー」
おさむ「ええーい。みんなのってるかー。」
うおー。やれー。
おさむ「いくぞー。最初はスローライドだー!!」
ケン「え、スローライド。おいみんなスローライドだ。いくぞー。」
イットク、スティックでカウント。
かんかんかんかん。
ズズッジャズズッジャズズジャー。ズズッジャズズッジャズズジャー。
ひゅああああああああああああああん。おさむのスライドがカットイン。おおなかなかかっこいいぞ。
「ソーライ。てか意ー地ー。そーだい。てか意ー地い。♪」
途中そろりそろりながらツインリードも無事こなし。なんとか終了。
シーン。
ケン「わわわわ。駄目かあ」
わーーーーーー。わーーー。ぱちぱちぱちぱち。
いいぞう。兄ちゃんもっとやれー。ひゅうひゅううう。
おさむ「わわわわウケちゃったよ」
事前にこっそり音合わせしてて良かったなあと思う全員である。
「わー受けちゃった」
スロー・ライド一発決めたあと、大拍手、大声援をいただいたブギー・ブラザース、興奮で顔真っ赤喜んで顔真っ赤であります。
「よっしゃあ。続けてキャロラインいこう!ステイタス・クオーのナイスなナンバーですっ。」
ステージでMC仕切るのはおさむの独壇場になってしまった。
1,2,3,4
デコデドードド、デコデドードド、デコデドードド、デコデドードド♪
印象的なリフでずんずん
〜会いたーいーお前ーに〜つくづくなんてもんじゃー、ありゃせぬほんとだー♪
〜ちゃおお、すいキャロラー、なんとすいキャロラー、置いてけほらのってけほら♪
ズズジャズズジャズズジャジャー♪
「わー。わー。いいぞおらー。。」「おおおかっこいいいい」
「わーまた受けた。(小声で)しかしすげえ歌詞だなまったく。」とおさむ。
ここでケンも奮起、MCで頑張る。
「ありがとう。ありがとうございま。初めてみんなで合わせたとゆうのに。何とか2曲出来ました。えー続けてこ、この曲で初めてシローおじさんにギターを教えて貰いました。ロッド・スチュワートのスリー・タイム・ルーザーそしてホットレッグス!!」
完全にやりました。できっこないのにここまでかなりいけてる演奏。その2曲も何とかミス無く勢いでかましたブギブラだ。
「ははははははは。やったやった。」
「えーそれではZZトップのタッシュ行きます。 いけるかな。」
何か感じるとこあったか最後の方でやることになったタッシュ。
1,2,3,4
じゃッジャジャーッジャッジャジャー、あう、じゃッジャジャーッジャッジャ
ジャー、じゃッジャジャーッジャッジャジャー♪
〜あげな、ジャッジャジャー、
〜ことじゃ、ジャッジャジャー
〜俺は、ジャッジャジャー
〜まいらーないぞ、俺は負けない、ふううふうう
〜あれなんてことするだ、一目散にダッシュ♪
と歌の部分までは快調。だったが間奏ギターソロに入ってドラムのイットク焦り始める。
「お、お、お、お、お、」
初のシャッフルに合わせられなくなり収拾がつかないことに。
ばらばらとなりでこでんと演奏停止。
ケン「あー、やばー。やっぱしこうゆうことに」
「おーどうしたー兄ちゃん。シャッフルはでけんかー」と一番前席にいる親父。
おさむ「イットク。だいじょぶか?続けて出来るか?」
イットク「えろうすんまへん。何かひっかかっちゃって。すっまへんけどこの曲飛ばしてくれまへんでひょか。もっと練習してきまっから。」
ケン「わかった。じゃ最後のあれ行こう。」
「何してんだー。おらー。しっかりしろー」
ケン「すみません。まだまだ未熟です。それではこれにめげずに最後の曲。シローおじさん、お願いします。監獄ロックやります。」
シロー「お、お、お、俺がやるのか?いいだろう俺は。やんなくて」
ケン「しっかりバックしますからお願いしますぜひ。みなさん。シローおじさんがギターやってくれます。拍手をー」
「おーーーおーーーーいいぞうシロー、やれやれー」
シロー「仕方ないなあ。」と言いつつもすぐギター抱えて登場。どっかで一発やらかすつもりで用意してたようだ。
♪捕まるつもりじゃありゃしない、お手手が勝手に気の迷い、注意一秒怪我一生、気が付けきゃまたまたいつものところで♪
いよいよギターソロ。
爆発シローのギャロッピングギター。さすが元プロ、演奏の格しっかりしてどんどん引っ張り、ひっぱり、ひっぱりひっぱり
「わー、いいぞうやれやれーい」
シローの合図で盛大なるエンディング、 ぎゃんぎゃんぎゃんぎゃんぎゃああああああん。
ギャン。
ばっちりきまった。
じゃあああああん じゃん。
おーいえー。いいいぞーいいぞーーー。ぱちぱちぱちぱち。ひゅー。ほーほーほーほー。
大声援の中何とか演奏終了。
「ありがとうございましたー。」
まったく最初の本格的バンド練習がライブになるなんてなあと思いながら一同退場。って行っても楽屋が無い。
汗をぬぐいながら席に付きました。
シローおじさんがやってくる。
「やー、君達なかなかやるじゃないか。まさか初めてであそこまでやるとは思わなかったよ。」
ケン「もーーー。びっくりしたっすよ。」
おさむ「聞いてないっすよおお。」
ショータ「おおおおおれ、音出てましたかでてましたかでてまたしか。」
バコっ。
イットク「・・・・・・・」
そこへアッコが飲み物を。
「お疲れ様ー。コーラをどうぞー。おじさんのおごりだって。」
ショータ「あー、先輩のだけ氷入ってるすよー。贔屓だー。」
確かにケンのだけ氷がサービス。
アッコ「あ、あ、あ、えーと私は君達のマネージャーみたいなもんだからね。」
ショータ「全然答えになってないなあ。」
ばこっ。ケンとアッコ同時にショータをパンチ。
「ぐげ。そこまで気を合わす事ないすよお。」
ケン「うぐ、ああ、うーん。えーとアッコ、マネージャーやってくれんだ。」
「ええ、まあね、あんた達だけじゃ何やらかすかわからんし。」
おさむ「確かに。」
わははははははははは。一同大爆笑。
勢いでマネージャーになってしまいましたアッコちゃん。こうなりゃ腐れ縁だ。
シロー「めでたくマネージャーも決まったことだし、あれだ、ちょっと楽器貸してくれないか君達。」
ショータ「わああこれもつながってない質問だー。」
ケン手を上げるも叩かずすかす。ショータ「ひっ」。
おさむ「え、何ですか。いいすよ。あんなんで良かったら。なあみんな。」
「は〜い」
シロー「よ〜し。おーい、ちょっとやってみないか。昔みたいに。」
シロー、ステージ真ん中まん前に陣取っている謎のハイカラ親父群に声をかける。
無責任そうな親父「ひゅー。やるかやるかー。せっかくだしなあ。」。トランペットを持っている。
サンラ似の親父「おう。それじゃいくか」
ゴリラ似の親父「ういーっす。」
シロー「おーい、岸田君、君もやらないか。持ってきただろ。言われた通りに。」
いつのまにか来ているハマ楽器の岸田さん。しかもウイズ・サクソフォーン・テナー。
「ええ、お祝いですから。やりましょう。」
とゆうことで突然始まる親父バンド・ジャム・セッション。サンラ似の親父はドラム、ゴリラはベースであった。
シロー「えー、みなさん。若い衆の元気な演奏が終わったあとで何ですが・・・昔取った杵柄、おじさんバンドの演奏に良かったらお付き合いください。」
おさむ「なんだなんだー。凄いぞ。うおーーーーーいいぞいいぞおお。」
イットク「いよっ。大統領。死にぞこないっ。」バコッ。
ひゅーひゅーひゅーうううう。
無責任「おーし。何やるか。ズンドコかー。」
シロー「あれやりましょう。」こちょこちょ。みんなそれぞれに耳打ち。
どでどどどど、どでどどどど。ベースから入った。チッコクッタカチンコクッタカ。ドラムがからむ。
ばおばおばおばおばおばお。サックスのリフ。テロリツリリラテリツリロリら。ギター。
ぷぱぱぱーぽぱらつぴー。ぷぱぱぱーぽぱらつぽー。トランペットが主旋律。
ここれは、チェニジアの夜だ。モダーン・ジャズ。もちろんブギブラの面々わかろうはずもなく口あんぐり。
何回かメロ繰り返したあと、いきなりドハデな展開に。
パーロットパーロットパラテュチャン、パーロットパーロットパラテュチャン♪
そしてサックス・ソロに突入。
ブババボブベブリブリブリブリ〜〜〜〜〜〜。
ケン「うわーーーーー。岸田さーーーーーん。」
おさむ「わわわわわ、俺達すげえ人に囲まれてたんだなあ。やべえぞこりゃあ。」
驚くのも無理は無い。それはまさしくプロ。トンでもない演奏であった。
シロー・バンド、親父部隊の演奏はさらに続いた。
続いてベンチャーズのウォーク・ドント・ランを軽やかにかましディック・デイルのミザルーではシローおじさんのトゥワンギン・ギター炸裂、新装間もない店の壁が震える。次のベートーベンの喜びの歌までサーフ仕様。一転マイルス・デイビスのラウンド・アバウト・ミッドナイトでは無責任親父のトランペットが会場を酔わせる。かと思えばミンガスはんの直立猿人で岸田さんのサックス爆発。プレスリー・メドレーをやってマンボやって最後はチャック・ベリーのジョニ・ビー・グッドで〆。シローおじさんボーカルもなかなかやるぞ。あまりのことにブギ・ブラザースの面々は口アングリ。ただただワアワア言って拍手のし通しだ。それはアッコも同様でおじさんの演奏する場面を始めて見てハンバーガー、オーダーされるもいつまでも作る事無くボーっとして見続けていた。
シロー「えー、どうだったかな。最後はそこのおじょうちゃんのためにサザエさんいこか。」
ジャンジャンジャンジャン。インストでサザエさん。
マコは大喜びで踊っている。
「ありがとう。ちょっと休憩です。もうあれだ飲み物とかは勝手にやってください。わはは。」
親父ども全員汗だくで席に戻る。
無責任親父「あー、熱い熱い。おいシローちゃん、ビール無いか?」
シロー「おうおう、今仰山持ってくるから。」
シローとアッコ、そして手伝わされたブギーの面々、大量の大生ジャッキを持ってくる。
サンラ親父「おー、来た来た。さあいくぞー。」
シロー「えー、じゃみんな。久々のギグに乾杯!」
「かんぱーーーーい。」
ぐおおおおおおおおお。
「うめーーーーっ」
「たまんねえなあ。やった後の一杯は。」
「ぎゃはははははははははは」
ケン「お、おじさんたち凄いです。改めてびっくりしたなあ。おじさんたちっていったい。」
シロー「ああ、紹介がまだだったな。えーっとこの無責任そうな兄さんは植木さんって言うんだ。」
植木「よっ!よろしくな。」
「そしてこのでかい顔の親父はハナさん。」
ハナ「よろしくー。」
「ベース弾いてたゴリラさんは、イカリヤさん。チョーさんって呼べばいいよ。」
イカリヤ「ういーっす。ゴリラはひでえやなあ。」
「岸田さんはもうみんなお馴染みだな。」
岸田「ははは。来ちゃったよ。」
「そしてこの若い人たちが横浜ブギブラザースだ。」
一同「よろしくおねがいしまーす。」
ケン「おじさんたちは昔シローおじさんと一緒にやってたんですか?」
植木「ああ。でかいバンドでなあ。もっと他に一杯メンツいたんだけど。」
ハナ「最後まで一緒にやったのはこのメンバーだな。」
イカリヤ「昔はこの辺のキャバレーはみんな生バンドでショーをやってだんだよ。」
シロー「まー忙しいはモテるやらで大変だったわ。」
ハナ「あの頃がハナだったわなあ。ぎゃはははは。」
おさむ「それにしてもレパートリー広いですねえ。と言っても曲はわからなかったけど。」
一同爆笑。
ハナ「まあな。客がやれって言ったらすぐ出来なかったら恥だったから。」
植木「そりゃもう必死に覚えたもんだ。」
ケン「岸田さんも凄いや。全然知らなかったサックスやってるなんて。」
岸田「ふふふ。」
シロー「この人は完全にジャズの人で。うちらとはあまりやったことはなかったけど有名だったぞ。ヨコハマに岸田有りって。」
岸田「いや。それほどでも。」
イカリヤ「ジャズも最近はすっかり下火だからなあ。悲しいよ俺は。ういーっす。」
植木「それはそうと君達さっきのが初練習だって。」
ハナ「そりゃ凄い。初練習がリサイタルかい。」
おさむ「ええ、実は。全然聞いてなかったすよー。おじさん。」
シロー「ははは。すまんすまん。待ちに待ったからなあ。まあ偶然お客さんもいたし良いじゃないか。」
ケン「いいじゃないかってもーーー!」
植木「いやでも大したもんだよ。なかなか最初からああは出来ないぞ。」
ハナ「そうだそうだ。あれでもっと練習したらプロになられるかもしれないぞ。ははは。
おい、ドラムの兄ちゃん。」
イットク「はいっ。イットク言います。どうかよろしゅう。」
ハナ「そうか。イットクちゃんか。うまくやったぞ。シャッフルの曲がうまくいかなかったんでへこんでるみたいだけど気にするな。最初からあれをガンガンやろうなんて百年早いわ。」
イットク「そやけど百年かかったらここにもうおらんで。」
一同大爆笑。
ハナ「なら半年にオマケしてやろう。練習せーや。」
イットク「はい。おおきに。頑張ります。」
マコにやり。
ショータ「ぼ、僕のベースはどーでしたか?」
イカリヤ「いやあのベースは良い楽器だわ。まさか本物弾けるとは思ってなかったよ。」
ショータ「えとえと楽器じゃなくて演奏なんですが」
「ああ、面白かったぞ。でもなんであんな弾き方するんだ?」
「えっ?弾き方?」
ケン「しーーーーっ!良いんだいいんだ。あれで。ばっちし。」
一同にウインクしまくり。
イカリヤ「おっ、何だ何だ。そうかそうか。おう、あれでいい、あれでいいぞ。」
がははははははは。
ハナ「よおし一杯やったし、そろそろ本気出していくかー。」
植木「そうだな。暖まってきたしな。」
シロー「ははは。そうだ。君達は適当な時間に勝手に帰りなさい。遅くなると家族の人たち心配するし。」
「はーい。」
そして親父達の再会ギグは続いた。ブギブラザースの面々、そしてアッコは9時ごろ帰ったが噂に聞くと演奏は夜通し。まじ朝まで続いたそうである。
ケン「そいじゃなあ。みんな。ごくろーさん。」
おさむ「おつかれー。次の練習は明日学校終わってからだ。」
ケン「授業終わったらバーガーシローいや桃屋に全員集合!」
「はーい」
「じゃあなあ」「どうもー」
全員散会。
ケンとアッコの家は比較的近く方向が同じだったので最後は自然と二人で帰ることになりました。